PC-SCHEDによる観測スケジュール作成時に必要なファイル
一般ユーザーのためにJVN VLBI観測に特化した観測スケジュールを作成するためのガイドを作ってみました。 ここでJVNとは、VERA(20m鏡4台)や大学連携VLBI(苫小牧11m・つくば32m・鹿島34m・ 臼田64m・岐阜11m・山口32m鏡)、さらには野辺山45m鏡を組み込んだ国内VLBI観測網を指します。 JVN観測システムの特長、欠点、システム制御における詳細にわたる制限事項を把握し、 できるだけ観測失敗に繋がる部分を省き、 できるだけ成果に繋がり易い観測スケジュールの作成の一助になれば、幸いです。 参考にしてください。このガイドは、 PC-SCHED上で観測スケジュールが作成されることを前提としています。そこで、 マニュアル簡略化のために、PC-SCHEDのインストール方法や、 PC-SCHEDの操作方法は、ここでは述べていません。このガイドに関する質問・要望は、 ガイド作成者 (hiroimai << at >> sci.kagoshima-u.ac.jp)まで問い合わせて下さい。
◯各局で統一された、ほぼ全自動のバックエンドシステム。
(現状ではVSOPターミナルあるいはVERA field system+DIR1000
レコーダーの組み合わせと、DMS-24使用、
大学連携ではFS9フィールドシステムとK5レコーダーの組み合わせ)
◯帯域、周波数分解能に対してかなり融通の効く相関処理 (三鷹FX相関器)。
◯極端に感度、駆動速度の不揃いな望遠鏡の集合ネットワーク。
◯気象データ、システム雑音温度のデータは自動的には得られない観測局がある。
◯各観測局では自動運用が可能だが、その形態がことなりアレイ全体では全く同じ操作が行われる訳ではない。
各観測局の運用形態を把握した上での観測計画が必要
◯観測目的は?
☆像合成のみ
像合成においては、UV平面の埋まり方が非常に重要な要素になります。 UV平面の埋まり方を調べた上で、観測提案・ スケジュール作成時に適当な観測時間帯を設定しましょう。また、 フリンジ位相・感度共に補正できるような較正天体スキャンを、 適当な時間間隔で観測スケジュールに挿入する必要があります。
☆位置計測
絶対位置、相対位置いずれの場合も、 時刻方向にも周波数方向にもフリンジ位相の補正が良くできる観測スケジュールを考えましょう。 さらに、座標系補正に必要なパラメータ(例えば望遠鏡仰角、地球回転パラメータ) の情報も必要になります。ただし、望遠鏡の位置は、測地VLBI観測を定常的に行っていない観測局 では、あまり精度良く求まっていません(精度10cm)。
☆電波源スナップショットサーベイ
限られた観測時間内で、幾つの電波源をサーベイするのか?
短時間積分ながらも像合成を試みるのか?
1電波源あたりどれくらいの観測時間を割くのか?
フリンジ位相、感度をどれくらいの精度で補正する必要があるのか?
これらのことを考慮しましょう。その上でさらに、
望遠鏡駆動によって失われる観測時間も計算しておきましょう。
☆スイッチング相対VLBI
天体間の離角・方位角によって、 望遠鏡駆動による観測空き時間が大きく変化します。また、 DRUGEファイルを望遠鏡駆動用、バックエンド制御用の2つ用意する必要があります。 相関処理段階で、スケジュール通りに天体を頻繁に切り替えて処理することができないからです。
◯ターゲットの天体は?
☆連続波電波源
どれくらい帯域を広げて観測するの (16, 32, 64, 128, or 256 MHz for 2-bit sampling)?
感度補正データをどのように拾得するの?
1。 システム雑音温度を、頻繁に測定できるような観測スケジュールを作成しましょう。ただし、 雑音温度測定は、全自動ではなくマニュアルで行う観測局があることを念頭に入れます。
2。観測対象天体の近傍にある、 ある特定の強いメーザー源をモニターするようにすれば、 システム雑音温度を頻繁に測定しなくても済む感度較正法 (template method) を採用できます。
☆メーザー源
メーザー源の視線速度に対応する周波数帯域をカバーできる周波数設定
(中心周波数, 帯域幅)は?
相関処理時の周波数(視線速度)分解能は?
時間変化を考慮して、観測時にどれくらいの強度で観測されると想定されるか?
◯Fringe finderは?
観測システム全般にわたって問題がなければ、 全基線でフリンジが絶対検出できる天体を、各観測で最低1回 (できれば観測テープ1巻毎に)はスキャンするように必ずして下さい。また、 このデータは、相関処理時に大きな遅延時間残差を知るためにも必要になります。 22 GHz帯では、以下の天体のいずれかを観測することが望ましいです。
(3C84), NRAO150, 0420-014, 4C39.25, 3C273B, (J1625-25), 3C279, 3C345, NRAO530, (J1925+21), 2145+067, 3C454.3
◯感度較正天体は?
全観測時間にわたって、 各局の感度をモニターできる天体が、これに相当します。感度補正精度を考慮して、 ターゲット天体からの許容離角内になる天体を選定し、 それを適当な間隔で観測するようにしましょう。感度補正において template methodを用いる場合、 充分強い水メーザー源を観測することが推奨されます。 JVNで適当な感度補正用水メーザー源は、 strong water maser source listに載せるようにします。
◯フリンジ位相較正天体は?
全観測時間にわたって遅延時間残差をモニターするための天体を、
最低1時間毎に観測するようにしましょう。上記のfringe finderを、
これに充てることが望ましいです。 しかし、
ターゲット天体にできるだけ近い天体であることがより望ましいです。
フリンジ位相較正天体については、
The VLBA Calibrator List
を参考に探してみて下さい。
ただし、
観測バンドに渡って残る位相のうねり(bandpass characteristics)の較正をしたい場合は、
fringe finder天体
を選択することをお勧めします。
◯フラックス較正天体は? 上記の感度較正は基線間・時間変化に対する相対的な較正であるのに対し、 フラックス較正とは天体物理量計測のために天体輝度を厳密に知る必要がある場合に行う較正です。 すでにフラックスが既知である天体を高い仰角で一度観測します。天体リストについては VLA/VLBA Polarization and Flux Monitoring を参照して下さい。
◯観測周波数帯域は?
メーザー源を観測する場合、その天体の視線速度(VLSR)
に対応した観測時における周波数を求めておき、正確に設定しましょう。
その計算ソフトは、別に用意されてます(詳細はホームページ担当者に照会してください)。
PC-SCHEDによる観測スケジュール作成時に必要なファイル
◯ANTENNA.SCH
望遠鏡の地球座標系(X, Y, Z)が正しいか、更新されているか?
駆動方式(JVNではどこの局でもazimath-elevation mount),
駆動速度の情報が正しいか?
☆現在、水沢・鹿島(34m鏡)・野辺山(45m鏡)・鹿児島のアルファベット 1文字で定義されている観測局コードは、それぞれM, O, n, k に指定されています。
☆現在、水沢・鹿島(34m鏡)・野辺山(45m鏡)・鹿児島のアルファベット 2文字で定義されている国際VLBI観測用の局コードは、それぞれMn, Kb, No, KGに指定されています。ただし、鹿児島局については定義がないので、 とりあえずKGを使いましょう。
☆VERA観測局はDRUGE fileを使わないので気にしなくて良いです。
☆上記観測局以外については、確定されていません。
◯SOURCE.SCH
観測する全ての天体に対して、天体名(IAU Code
(メーザー源の場合はcodeモドキ)と通称名)、赤経、赤緯、座標の分点(1950 or 2000)
を設定します。ただし今後はできるだけ2000を使って下さい。
◯CODES.SCH
観測周波数設定のためのファイルで、既存のものとは別に
JVN用のものを用意しておきます。それを、
観測スケジュールが決まりDRUGE ファイルが新規作成された時に、
DRUGE ファイルを付加します。このファイルには、
以下の情報が含まれていることが必要です。
☆各Base Band Channel (IF channel) のlocal frequency
☆信号データサンプルレート(64, 128, or 256 Mbps)
☆Base Band Channelの数(1 or 2)
☆各サンプルのビットレベル。通常は2bits/sampleに固定されています。
JVN VSOPターミナルでサポートされている上記各パラメータセットは、
以下の通りです(2bits/sampleに固定)。
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記録時間 |
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スケジュール作成時には、以下の点を考慮して下さい。
◯テープ交換のために、 スキャンとスキャンの間に最低4分間の空き時間を設けて下さい (実際には2分間の空き時間でも大丈夫)。
◯レコーダの記録停止・開始のために、 スキャンとスキャンの間に最低1分間の空き時間を設けて下さい (実際には40秒間の空き時間でも大丈夫)。 それより短い時間でスキャンを次々と行う場合 (例:相対VLBI観測)は、 望遠鏡駆動用として別のDRUGEファイルを用意する必要があります。
◯システム雑音温度の測定は、JVN では自動では行いません。各局で、 測定装置の操作に必要な空き時間を、スケジュール中に設けておく必要があります。 必要な空き時間は1--5分です。template methodを用いた感度 補正を行う場合、 観測前後の他に、 ターゲット天体が南中する頃にシステム雑音温度を測定するのが望ましいです。
◯観測割り当て時間開始直後から観測セットアップを開始する野辺山45m鏡の最初のスキャンは、 他の望遠鏡のスキャンと別に考えるべきでしょう。 30分間程度の観測できない時間が想定されるでしょう。さらにポインティング測定のため、 野辺山45m鏡では4--5時間毎に20分間程度観測が中断されます。 重要なスキャンとそうでないスキャンを適当に時間配分して下さい。
◯フリンジ位相較正天体は、教科書の記述よりもやや頻繁に観測する (30--40分毎に1回) ことをお勧めします。それは、 JVNの遅延時間オフセットの(系統的+非系統的)時間変動がやや大きいからです。 スキャンの長さは、コヒーレンス時間 よりも充分長め(22GHz帯では5分以上) にとりましょう。
◯高精度の位置計測を行う場合、バンドパス位相特性も知る必要もあります。 極めて狭い周波数幅毎に数度の位相変動を見るために、 非常に強いfringe finder (3C273Bなど)を数10分間観測するようにしましょう。
◯鹿島34m 望遠鏡をアンテナ高速スイッチングVLBI観測に参加させる場合は、
azimath駆動車輪の多大な往復によるazimathレール接合部の過大な磨耗を避けることが、
求められています。そこで、ある天体が所定の方位角に存在している時間帯には、
高速スイッチング観測を休止する(普通の天体追尾は続けても良い)ようにします。
上記の注意点以外に、 さらにカスタマイズされた観測スケジュールを作成するために、 以下の項目にも留意すると良いでしょう。
◯同時刻に同天体を観測する場合でも、異なる駆動速度を持つ望遠鏡ごとに、 個別にスキャンを定義することができます。こうして、 望遠鏡ごとにスキャン開始時刻あるいはスキャン終了時刻を変えることができます。
◯野辺山45m鏡が参加する関係上観測割り当て時間が制限されている場合、 野辺山45m鏡以外は、 割り当てられた観測時間帯の前後でも望遠鏡を利用できる可能性があります。 事前に調べた上で、 各観測局の運用責任者に直接交渉するなどして、 これらの観測可能時間も有効に使えるようにしましょう。このような観測は、 野辺山45m鏡がなくても検出できる天体の像合成などに有効です。
◯望遠鏡のスキャン毎におけるAzimath-Elevationをチェックして、 観測を立案しましょう。 観測自体は可能でも、Elevationが20度以下になると、 急激にシステム雑音温度が増加します。 特に長時間のスキャンの場合、スキャン途中で駆動リミットに引っ掛かり、 途中からスキャン途中で望遠鏡が天体追尾をしていない場合が想定されます。 また、仰角が80度--85度以上になっても、望遠鏡駆動リミットに引っ掛かります。 天体によっては1時間程度も観測できなくなりますので、注意しましょう。
◯過去にVLBIで観測されていないメーザー源の観測を行う際は、 メーザー源の絶対座標を測定することもとても重要です。 できるだ多くの強いQSOも観測中にスキャンするようにしましょう。 それらQSOデータを用いたクロックパラメータ補正の実行後、 フリンジレートを用いた絶対位置測定が可能になります(精度は0.1-1秒角)。
PC-SCHEDでDRUGEファイルを作成した後、 次のようにDRUGE ファイルを編集しましょう。DRUGEファイルは、 通常のテキストエディタを用いて編集できます。
1。野辺山45m鏡制御プログラム"COSMOS"が、 正しくJVN VLBI観測スケジュールを認識できるように、$EXPER の後の数字だけのプロジェクト名の頭に"v", "j", あるいは"t" (小文字)のアルファベットを1文字入れます。 JVN 観測の場合の入れるべき1文字は"j"です。
例) $EXPER j99361
2。テープ自動交換のために、 各スキャンの"TAPE"のカラム中の数字を変更して下さい。
例)☆のついた部分の数字を変更します。下記の場合、 全局で1スキャン目はテープ1巻目に、 2スキャン目はテープ2巻目にデータが記録されます。
$SKED
*SOURCES CAL FR START DUR IDLE STATIONS TAPE
J2148+06 10 s2 PREOB 99126183800 500 MIDOB 0 POSTOB bwk-M-n-
☆1F1089 ☆1F1089 ☆1F1089 ☆1F1089 YNNN
W51
10 s2 PREOB 99126185000 1200 MIDOB
0 POSTOB bwk-M-n- ☆2F0000 ☆2F0000 ☆2F0000 ☆2F1070 YNNN
※ POSTOBの部分がTSYSに置き換えられているケースが見受けられます。 これは、野辺山45m鏡において、天体切り替え時にシステム雑音温度を自動的に測定 するためのものです。しかしスケジュールチェックプログラムでは、ここをPOSTOB にしておかないと、エラーが発生します。この部分もチェックしておきましょう。
3。実際の観測・相関処理において必要事項を記述した部分を加えます。
◯周波数及び記録書式設定:$CODES, $PARAM 以下の部分
例)1999年6月7日に行われたW51水メーザー観測時のDRUGEファイル における>b>$CODES, $PARAM以下の部分
$CODES F JNET s2 1 1 4 A 16.000 - 2 9950000000
*>>> 周波数設定コードを``s2"にしています。ここを他のコードにした場合、 $SKEDのFRのカラムも同一の文字コードに編集し直して下さい。
C s2 K 22226.0 10000.00 1 A 16.000 1(1)
* ``K" :K-band (22GHz-band)の観測を意味します。
*22226.0: 1st BBCのlocal
frequencyが22226.0MHzであることを意味します。
*16.000: 1st BBCの帯域幅が16MHzであることを意味します。
*最初が``C"で始まる行については、BBCの数だけ行数が必要です。
L M s2 K IF1N 21780.00 1H 2H
L k s2 K IF1N 21780.00 1H 2H
L b s2 K IF1N 21780.00 1H 2H
L n s2 K IF1N 21780.00 1H 2H
*最初が``L"で始まる行については、局数だけ行数が必要です。
$PARAM
SAMPLE 64 2 1
*64 Mbps, 2bits/sample, 1BBCを意味します。
FORM 1 64 USB
*1BBC, 64MHzのIF帯下端周波数(固定値), Upper side band filter を意味します。
TIMECODE ON
*通常ONを指定します。
◯及び相関処理パラメータ:
☆Phase tracking centerの座標(必要時)
☆相関処理周波数帯域(範囲の切り出し、三鷹FX相関器ステータス参照)
☆分光点数(最大1024、三鷹FX相関器ステータス参照)
☆Parameter period(データ積分時間、デフォルトは1秒)
例) 1999年6月7日に行われたW51水メーザー観測時のDRUGEファイルへ付加したコメント文
*************** Correlation parameters ********************
*Phase tracking centers and integration times for the W51 water
maser
* Coordinate is at B1950 Integ. time
*W51N: RA=19 H 21 M 22.43 S, DEC=+14 D 25 M 12.5 S 1 sec
*W51M: RA=19 H 21 M 26.21 S, DEC=+14 D 24 M 43.0 S 2 sec
*W51S1: RA=19 H 21 M 26.25 S, DEC=+14 D 24 M 35.6 S 2 sec
*W51S2: RA=19 H 21 M 26.09 S, DEC=+14 D 24 M 28.0 S 2 sec
*3C273B, NRAO530, 2145+067 2 sec
*Spectral channel number: 1024 with 16 MHz bandwidth
完成したDRUGEファイルは、 以下のJVN観測スケジュール保管ディレクトリへ、 以下の要領で転送して下さい。
>scp [DRUGE file name] vlbi@veraserver.mtk.nao.ac.jp
(or 133.40.7.38)
:[observation year/month (e.g. mar2006)]/
[DRUGE file name]
(VERA/JVN DRUGEファイルの頭文字はそれぞれ"r"/"u"です)