天体メーザーとは?
メーザー(maser, Microwave Amplification by Stimulated Emission of Radiation)とは、可視光線で見られるレーザー(laser, Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation) の電波版です。 普通自然界で見られる電波は、物体の温度に対応した強度分布(いわゆるプランク分布) であらゆる波長で放射されます。また、各々の分子が独立して、 自らの微細構造に対応した特定の波長の電波を放射します。 これらの電波放射は「熱的放射」と呼ばれ、通常はとても弱い電波です。ところが、 ある限定された温度と密度環境にあるガス雲の中のある特定の分子 (水酸基・水蒸気・一酸化珪素・メタノール・アンモニアなど)では、 ある1つの分子から放射された特定の波長の電波が、 他の分子でも同じ波長の電波を放出するように作用し、特定の方向 に向かったこの電波がどんどん増幅されて非常に強力なものとなることがあります。 広大な宇宙空間内で実現される非常に長い増幅路によって作られるこの電波放射を、 「天体メーザー」と呼びます。
天体メーザーは、 宇宙空間のどこでも見られるわけではなく、むしろ、 天文学上とても興味深い天体に見られます。あるものは、星が生まれる領域 の原始星のすぐ近くに存在し、 またあるものは星の最期に星から大量に吹き出されるガスの中に存在し、 またあるものは、 遠い銀河の中心に存在する巨大ブラックホールを取り巻く回転ガス円盤の上に存在します。
星形成領域に見られる水メーザースポット(ポンチ絵)
中心の原始星を取り巻く回転ガス円盤とフローの中で観測される。
回転ガス円盤の上の水メーザースポット検出は、
1995年に最初に論文で発表された。